家族形成の選択肢についての情報提供パンフレットの有効性の評価

【目的】厚生労働省は「不妊治療中の方等への特別養子縁組制度・里親制度に関する情報提供の手引き」を発表し、治療初期に治療以外の選択肢に関する情報提供を行うことを推奨している。治療以外の情報提供も行うことは過度な治療へののめりこみや年齢制限のある特別養子縁組制度を利用する機会を逃すリスクを減らすことが出来るが、我々の調査では京都府内の不妊治療施設で治療初期の情報提供に前向きな施設は僅か15%であった。そこで我々は不妊治療施設で初診時に配布しやすい情報提供パンフレットの開発を目指し初版を作成した。今回はパンフレットによる啓発活動の効果や情報提供の侵襲性について検証する。

【対象と方法】2023年2月~6月に足立病院生殖医療センターを訪れた初診患者を対象に、パンフレット配布群と非配布群に分けwebアンケートを行った。各不妊治療ステップの概要、費用、通院回数、妊娠率、治療以外の選択肢について知識度を両群で比較し、侵襲度については両群あわせて単純集計を行った。

【結果】有効回答はパンフレット配布群79件(回収率37%)、非配布群84件(39%)であった。パンフレット配布群は非配布群に比べて各治療ステップの費用、通院回数、妊娠率、治療以外の項目に関して知識度が有意に向上した。しかし全体の48%が里親・特別養子縁組の情報を、46%が2人での生活についての情報提供を初診の段階では望まないことが明らかになった。

【考察】パンフレットがあることで治療に関する知識が増えたことが示された。一方で、治療初期に治療以外の選択肢の情報提供を受けることは約半数の患者にとって侵襲的であることも明らかになった。理由の一つとして厚生労働省の情報提供の手引きは日本より里親委託率が高い海外のガイドラインが参考にされていることが考えられる。制度が普及していない日本では一部の患者には受け入れにくかったと推測され、現在の日本の文化・社会的背景にあわせたパンフレットの改良が必要だと考えられた。

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